或ル少年少女ノ「シ」Part “Words”

世界構築のプロトコル lyrics : 宏川露之
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世界構築のプロトコルは あの日から全て塗り替わり
避けようのない現実と 僕らは静かに距離を取る
はじめに、手と手がほどかれて 数ヶ月、体が触れることもなくなり
そして、声の届かないほど遠く、人々は離れていった

どれだけ言葉を選ぼうと 心の網目をすり抜けて
僕らの気持ちが揺れるのは 感情が目に見えないほど 細かく小さなものだから
そんな風に誰もが知っていたはずの 約束事はもう忘れられてしまった
だから人はみな、ただこの世界から孤立する

いまにも落ちてきそうなほど 高い建設途中のビルは
どれも工事が続いたまま姿を変えない
僕らの言葉はすべてスクリプトエラーでしかなくて
そうして世界は、緩やかに終わっていく
一時的な避難場所だと定めたこの狭い穴ぐらが
終の住処に成り果てるまでの永い時間
何もできず、正しくは何をしようともせず
僕らは全てを眺めているだけだった
味気ない画面越しで

脈拍も体温も 風邪気味の声も
自分自身以外は、触れることない幻で
そのどれも すぐそばに 思い出せる日が
遠くなっていく ずっと遠く、遠くなっていく



スピーカーノート lyrics : 宏川露之
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わたしは世界が美しいとは思いません
自分が正しいとも思いません
もしあなたがいま 共感をしてくれるのなら 
もう少しだけ話を聞いてください

昔 子供のころ読んだ物語には
今日ほどつまらないものは何一つなくて
これほどまでに 無情で残酷なものも
決してなかったように憶えています

あのとき確かに 感じてた
高鳴って 続きを望む心とか
この退屈な世界に 取り戻したくて

答えはきっと 自分のすぐそばで
たとえばいっそ首元あたりとか
方法なんていくらでもあるよ
あなたのその手が凶器になって

なんて話をしている間にも
オーディエンスは次第に少なくなって
目障りな陽が惨めに暮れかけていて
やっと自分の影だって気づいた

掠れた声と 街の時報
急かされて 譲った場所で物憂げな
弾き語りの少年が 希望を歌って

「未来はきっと 君の手の中で
たとえば何にだってなれるよ」と
だったらわたしは何者なんだろう
気づけばそんな弱音を吐いていた

北口 抜けて 向かう大通り
拡声器捨てて 声は裏返り
狂信的な 自分によりすがり
今日死んだっていいやって 思って生きてきた

誰か一人でも聞いてくれるなら
その一人があなただったらよかった

答えはきっと 自分のすぐそばで
たとえばいっそ首元あたりとか
方法なんていくらでもあるよ
あなたのその手が凶器になって

未来はずっと わたしから遠くで
届かないところでただ嗤うだけだ
別れを告げた過去はすぐそばで
気づけばナイフみたいに鋭利だ




廃墟暮らし lyrics : 宏川露之
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どうか生きてくださいって 軽く言うじゃないか
どうせその続きにあるものは 何も知らんぷりで
なんて呟いたところで 歌の流行りも廃り
愚痴をぶつけるはずの相手も いなくなっているんだ

都心から二度乗り換えて 少し歩いた先の
高架下のアパート 切れた街灯のそば
僕の他には誰一人 いないかのような街で
まして闇の中では 人の影も見えない

低い天井 見上げるたびに募る
耐え難い倦怠感のそのわけが
寝不足か生きる意味不足か
見分けがつかなくなれば 終わりなんだ

もう少しだけ生きてみてと 祈りのように響く声が
誰の言葉か忘れそうな夜更けに
いつまで生きればいいのって どこにも答えはないままで
何とか言ってくれよ ずっと一人きり 廃墟暮らし

処刑台の刃みたい 満員電車のドア
ひと思いに閉じ切らないから 尚更たちが悪い
なんて呟いて気づいた 生と死の境目は
急行が通り過ぎる前の 線路の上にあると

遠い戦争 見慣れるたびに募る
絶え間ない厭世観の下敷きに
ただここで生きていたいんだと
願う彼らがいるのは わかっているのに

もし辛いなら逃げていいと 救いのように謳う声が
どこへ行けるか教えようとはせずに
話は終わってないよって 呼び止めるため追いかけても
勝手にいなくなって まだ続いていく 廃墟暮らし

とうの昔に朽ち果てた 機能不全の幸福が
吹き溜まるのにふさわしい この街の終着点で
いつか聞いたはずの慰めの 続きを問い直してみても
誰の返事もなく 希望の残骸に反響した

世界がすべて廃墟みたい 見渡す限り同じ景色
どこへ逃げても何も変わらないなら
今すぐ終わりにしなよって 自分で自分に嘯いて
だったらいなくなってやる

もう少しだけ生きてみてと 呪いのように響く声が
誰の言葉か忘れてしまった夜明けに
いつまで生きればいいのって 本当は全部知ってるだろ
何とか言ってくれよ ずっと一人きり 廃墟暮らし






みらい lyrics : 宏川露之
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新世紀は一人で迎えました
崩れたビルと割れた何かのディスプレイ
生きものは虫ばかり たまに聞こえる遠吠え
大きい声をうらやましいなと思うのです

中継地は学校、裏口から 
汚れた床で眠る 苦手な早起き
すきま風 割れた窓 震えても夜は長く
寝返りさえも打てない場所で夢を見るんです

終電には乗り込むつもりだった
休戦日に世界が無くなるなんて

みらい こんな 私だけ泣いて 
もう、ずっと寂しいままで
見慣れていた景色 探しても 街並みは暗く、ただ暗く 
みらい こんな 私だけがいて 
もう、とても眠たいけれど
初めて見た 遠い灯火が 
塞いだ目を開かせてくれた

救命器はおととい使い切った
潰れた喉で歌ういつかのゲームソング
飲み物は雨ばかり 自販機はどれも空で
広告ポスター 炭酸 昔は好きだった

トンネル前 廃バスが塞ぐ道
進んだ先にきっと 答えがあるから
あと一歩 あと一度 乗り越えて 擦りむいて
あと少しだけ 生きていたいと思うのです

一日ずつ 明かりを追いかけて
近づくから 願いも叶うといいな

みらい こんな 私だけ泣いて
もう、ずっと寂しいままで
抱えていく荷物 軽くても 足跡は深く、ただ深く
みらい こんな 私だけがいて
もう、とても眠たいけれど
誰かがいま 生きて待つのなら
見つけて会いに行けますように

たどり着いた目的地には 機械式の点滅灯
全自動 人の手も借りず 淡々と瞬いて
高汚染レベルの警告 それだけのための光
心のどこかで気づいてた 諦めたって見ないふり

生きる意味なんてなかった
それなのに失くした気がした
また見つけるのは簡単だ
それなのにどこにもないのは

みらい こんな 私だけ泣いて
もう、ずっと寂しいままで
明日はどこ 向かうあてもなく
塞いだ目は 世界さえ閉じて

みらい こんな 私だけがいて
もう、とても眠たいけれど
「誰かが また 起こしてくれたら」
なんて夢はもう見れないかな

みらい こんな 私だけ一人
もう、生きていないみたいだね
それなら いま 流した涙は
目を覚ますまで 乾かないように




一夜分の命に lyrics : 宏川露之
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交差点 渡りきれずに信号が変わって 
動けないまま座り込んでしまった
そんなふうにまるで救いようのない 
ほころびだらけの人生だった

過ぎ去った日々の中に少しでも
意味があったと言える瞬間を探して
繋ぎ合わせてみてもできあがるのは
語る価値もないフィクションだけだ

嘆いたり 投げ出したりばかりで
何も分からない 何も変わらない 何もかもいらない
そう口にするたびに なんとなく痛む胸に 吸い込んだ息を送って
ただ この命を薄めて生きてきた
いつ失くしてしまってもいいように
気づけば 私の手から吹き飛んでしまうほど軽く
曇る空に紛れ込んでしまうほど淡く

でも、君と過ごした短い季節を
思い出す夜だけは抱きしめたまま

咲いたはずの桜が 長雨の最後に散り積もっていく 一夜分の命に
壊れかけてた傘が 私の代わりに濡れそぼっていく 一夜分の命に

君と私に 降り続く雨が やがて死にゆく二人のために
たった一夜の命のために 泣いてくれているみたいだ

ずっと嘘をつくのが嫌いだった
本当のことを話すのはもっと苦手なのに

どこにも行けないような気がした
どこにも居場所なんてないのに

生きる意味なんて何もなかった
それなのに失くしてしまった気がした
どうせ簡単に終わる命のはずだったのに

私を見つけたのが君でよかった



告白 lyrics : 宏川露之/ein himinn
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たとえばどんな願いが叶えば僕たちの
人生は正しかったと言えるのでしょうか
君に伝えたかったのは そんな問いじゃなくて
答えの方のつもりだったのにな

少しは夜の孤独に慣れたと思っても
本当は不意に見上げる星にすら泣いて
すぐに曇っていく空 悪くなった視力でも
過去を振り返るには充分だな

君がいない間に 変わった景色
何も未練はないよ どうせ懐かしむような世界はそこにない

人生は美しいなんて ありふれた空事
言い返し返されてを 繰り返して生き延びて
取り残された僕の命が 虚しい夜に横たわり
どこにも行けずにいる

たとえばどんな言葉を選べば僕たちの
間違いも意味があったと言えるのでしょうか
そんなこと考えてる間は まだ早いよってさ
いつかの僕らに笑われそうだな

雨が続く夜明けに 傘を広げて
君を迎えに行こう どうせ望まなくても世界は続くから

後悔も無駄じゃないなんて 聞き飽きた戯言
愛想尽かさず微笑む 君が手を振って叫ぶ
積み重なった古い記憶も 降り止まぬ雨に打たれて
やがて錆つき消えてゆく

それなのに忘れはできない 悲しい思い出と
びしょ濡れで重たい荷物 引きずりながら歩く
いつか聞こえた君の言葉も 冷たい夜に凍りつき
遠く離れていく

生きていく意味なんて 世界にはなかった
答えも見つけられず 終わりにもできるけど
君がくれた言葉が 僕の中で生きて
ようやく返す番だ 君が好きだ

人生は素晴らしいなんて ありふれた空事
言い負かされてもいいから 前を向いて進む
生き損なった僕の命が それでもって言えるのなら
たしかに悪くはないかもな

後悔は無くせないなんて 言い飽きた泣き言
もういいよ全部飲み込んで 最後に笑うから
取り残された僕の言葉が 間違いじゃなかったと
いつか言えるように

明日に向かう僕らの今が 生きていて良かったと
きっと言えるように