ユキニフル – regret is under the existence –

コールドタウン  lyrics : 宏川露之 / ein himinn
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驟雪、冬の陰りが空を覆って 
たった一瞬の間違いが人々の足元を隠して
地下鉄にまで潜り込む冷気はまるで
この街が僕たちを、追い払おうとしているみたいだった

凍結 途切れず 足止めの列 迂回した先で クーデターが起きて
幸福なんて考えが広まるその前に これほど容易く気が変わる
冷たく あしらわれ続けた街 都会にて 夜 捨てた瓦礫が消えて
仕方ないと考えて 目を閉じたそのあとに こんなに容易く日が暮れた

体温からコーヒーの熱を差し引いて
冷えていく君の脚はもうどこにも行けないままの

絶対零度 

港に注ぐ風  拒むように 建てられた高い壁
僕たちの街を覆う天井は 雨を弾くたびに煩く響いた
波間に消える影 探すように 散らばった人の声
僕たちの過去を掴んで離さない 足音とともに 故郷を背にした

病欠 治らず 何度目の熱 取り出した 暖かい灯が夜を照らし
往復切符 乾かして  手渡したその先に あれほど望んだ場所がある

って結局さ、いったい僕らは何処へ向かうのだろう
長い暗闇の中、情熱だけを手掛かりに
追いかけて、追いかけて、追いかけて、追いかけて
それでも今日の終わりに置き去りのまま

脱ぎ捨てて濡れた制服は乾かずに
ざらついた冬が触れる心を凍えさせていく

厭世感情

助けを呼ぶ声が届くように 確かめるうちに未明
眠らずに明日に向かう街角は 雨を弾くたびに虚しく響いた
身体が火照る風邪 治らずに ふらついたままの道
目的地の果て 先に辿り着いた 足跡と君を追いかけて

暗く寒い都市にたなびく髪
立てられた旗は僕たちを追い返すようで
残された人は皆 見舞いの列
帰らぬ昨日を探している だけど僕たちは

行こうが戻ろうが居場所はなく 続く境界線は立ち塞ぎ
ここに留まる理由もないから 滲む雨とともに街へ潜る
希望なんてなにもないまま ずっと 彷徨い続けた
夜明けは今にも訪れる そんな声も凍る

絶対零度

額に伝う汗 拭うように かじかんだ手を重ね
僕たちの街を覆う悲しみが 雨と混じるたびに 煩く響いた
誰にも融かせない氷のように 閉ざされた街の 片隅で生きる
君を探すため 感覚なくしても 歩みを続けて

僕たちの過去を 掴んで離さない 雨音とともに 故郷へ向かった

 

或旧友へ送る手記 lyrics : ein himinn
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10月の終わり 降り出した雨 大きな傘のような部屋の中
僕のとっておきの計画も もうすぐ終わりを迎える頃
何もしないには少しだけ 勿体無いような気がして
僕のこれまでをなぞるように あてもなく手紙を書いている

思えばいつからだっただろう 僕を見ている僕がいたことを
亡霊のように距離を取り 賽を振る姿を眺めていた
何者になれるはずだった?  何を成し遂げられるはずだった?
そんな問いかけの道すがら 僕は僕をやめることに決めた

僕の人生劇場 やがて終わり 出来の悪い映画にもならない
それなのに何故、涙は止まらないの
僕の人生回顧 現実逃避 積み上げた今日に 居場所なんてない
それならば過去のもとへと逃げ出して

君もまだ思い出せるだろう この街にミサイルが落ちた日を
大きな声では言えないが 僕の胸は高鳴っていたんだ
この世界が壊れていくような この現実を塗り替えていくような
そんな期待で見た未来が 今の僕だとは笑えないよな

僕の人生劇場 じきに終わり どんでん返しは起こりそうもない
それなのに何故、明日は続いていくの
僕の人生回顧 死に場所探し 投げ捨てる今日に理由なんてない
それならば雨の海へと飛び込んで

降り続く雨に身を隠し この街の最後 火を付けた
赤く照らされた廃ビルが 映し出す僕を眺めていた
あの日の僕の後悔ひとつ あの日の君の約束ひとつ
それならば僕は何をしよう この物語の最終章

僕の人生劇場 ここで終わり 終幕の後のアンコールはない
それなのに何故、言葉を探してるの
僕の人生回顧 あとがき記し なんて信じない まだ終わってない
それならば傘の外へと踏み出して ずぶ濡れの空に向けて叫びたいよ

生きたいと

10月の終わり 降り止んだ雨 大きな傘のような空の中
僕のことは忘れてくれよ 風に消えていく名もなき手記

 

遺体捜し lyrics : 宏川露之
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聞いた話でしかない 誰にも似てない遺体を
まだ形が残る街の外れ 暗い夜更けに埋めたんだ
逃げ出した僕らは知らない どこにも行けない未来を
病院のリネン室は空のまま 何も包まれないんだ

振り出しから幾日 汚れた荷物を背負って
面影のない故郷の端に立ち 蘇る記憶の中
無数に散らばる棺に 描かれた記号を辿って
リノリウムの床 むき出しの土 その先の扉を開けた

見慣れない数の眼が横たわる 言葉も出せない彼らに
似合う声は 「もう二度と」

僕らは僕らの遺体を隠して
わざとらしく 途方に暮れている

早く生まれたとしても 順に訪れない終わりが
日常を超えた慣れない単位 すべて同時にやってきて
その一つひとつの意味を 僕の痛みから測って
比べられないことなどわかってる でも重ねてしまうのは

途切れない冬の雨 待つあいだ ビルの地下墓地へ潜って
動く体は 冷たい僕一人

僕らは僕らの遺体を捜して
悪びれなく 墓標に触れている
どこかに流された明日を失くして
恥じらいなく 無邪気に泣いている

淡々とニュースが繰り返す名前  少しずつ増える計算式の向こう側
濡れた土の匂い 手のひらは錆にまみれて
掘り返した穴の 薄暗い奥底には
君がいたのかすらも わからなくなったまま
いつか見失った 姿に出会う

僕らは僕らの遺体を見つけて
いつしか 涙も涸れている
どこかに埋めてきた昨日を燃やして
それでも 墓標にしがみつく

僕らは僕らの遺体を掴んで
浅く開けた 穴から抜け出して
遠くで瞬いた 灯りを目指して
傷ついた身体を 連れて行く

僕らは僕らの遺体を抱えて生きている

 

等間隔に灯る lyrics : 宏川露之
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まだ消えない夜の星座が冬を囲むようにして光り
輪郭を失くした故郷を、荒れた舗装道に代わって形取っている

僕らの生活感と世界の喪失感と 過去からの視線の先には
どちらも同じ大きさに映って 遠近法を繰り返して小さく笑った

いつも終末を告げるみたいだった天気予報が、明日はきっとよく晴れるって嘘みたいにさ
それでも信じてみようと思えたのは、やっと僕たちが新しい今日を見つけたから

等しい距離にある各停の駅は
遠くへ行くには遅いけど 懐かしい街に出会う
等しい夜にある後悔の日々は
綺麗に結べはしないけど 懐かしい形になる

コンビニの明かり 非常灯の赤 通行止めの電光掲示板
端末のディスプレイ 僕たちの後悔 降り積もる雪
そのどれもが 等間隔に灯る

夜行バスのヘッドライト 横倒しの自販機 ショッピングモール
公衆電話ボックス 数え切れない僕たちの間違いが
等間隔に灯る 等間隔に灯る

立ち並ぶ街灯に あの日の最終電車
眺めるだけしかできなかった日々の 僕の眼にこれまでの全ての君が
等間隔に 等間隔に灯っている

 

融雪 lyrics : 宏川露之
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かじかんだ手と手を重ね合わせて
そこに何があるか わかるくらいに
暖め合っても また感覚は消えて
平熱 失った君の隣で

通り過ぎる駅が世界を変えて
傍に君がいるか わかるくらいに
やり直しはなしで けど振り出しの上で
明日を探している 昨日のために

残った荷物と後悔を背負って
到着遅れた今日に乗り込んだ朝
零れ落ちそうでも 僕らの答えを
失くさないって 胸の奥底にある

そういえば、僕らが いつか降り出した雪に触れて
掴まった冬に手のひらは凍えて
そんな日の記憶さえ 吐き出した息に霞んで消える
連なった夜に さよならを告げるんだ

泣き止んだ街並み 遠く眺めて
帰り道の最後 答えはあるか
肩を寄せ合って 空いた電車の隅で
言葉を探している 朝が来るまで

時間は今でも不器用に流れて
車窓の景色のようにいかないけれど
不確かなままでも 僕らの未来は
続いていくって ずっと目の前にある

もう一度、僕らが 強く吹きつける雪に濡れて
手放した傘は過去の僕に預けて
どこへでも行けるよと 一人立ちすくむ君の手を取り
塗り替わる日々に足跡をつけるんだ

物語は目的地へと向かって折り返すことだ
新しい雪にまた降り積もる僕たちのこれまでを
全部拾い集めて ホームに降りたとき
何も変わらない景色を覆う 白い粒に舞い上がる

そういえば、僕らが いつか降り止んだ雪に触れて
掴まった冬に手のひらは凍えて
そんな日の記憶だけ 積み上がる真夜中に照らされた
世界が今、雪に降る

そうすれば、僕らは 生まれ変わり始まった未来に
手放した過去をもう一度集めて
どこへでも行けるよと 二人握りしめる温もりだけ
過ぎ去った日々の後悔を融かして
塗り替わる今日に足跡をつけていく そっと