キミらしく生きて

或ル少年少女ノ「シ」 lyrics : 宏川露之
——————————————————–
大事な夜に告白しようと思う

僕が肌を灼かないように 傘を貸してくれたあの子に
陽射しの強い日が続いてばかりだから
あの子が死んでしまうまえに 告白しようと思う

人工太陽 長引く故障 乗り継いだレンタカー 
繰り返す電子案内 街頭の深夜番組のテーマは「僕らの未来」 

少年少女ノ「シ」には 理由らしいものはなくて
美しいってことに 惹かれるだけで 泣いて
どうせ、 僕らはいつも 気が済むまで馴れ合って
白々しさに 耐えられず 笑うんだ
十年ちょっとの日々も 命と呼べる長さで
くだらないってことに 近づくだけで 泣いて
どうせ、 僕らはいつか 呆れるほど簡単に
後ろめたさに 耐えられず 終わるんだ

私は君に訊いてみたいことがある
たった一人 明るい夜に 傘も差さずにいたあなたに
陽射しの強い日が続いてばかりだけど
どこか別の世界で君や 私は生きられると思う?
 
信号待ちの赤い点滅 溶け出した現実
嘘をつくのは嫌いだけど 本当のことを話すのはもっと苦手だ

少年少女ノ「シ」には 理由らしいものはなくて
土砂降りの雨に 肩を濡らした 君は
いまにもたった一人で 思い出さえ投げ出して
知らない街で 私だけに 笑うんだ
十年ちょっとの日々を 命と呼ぶには短くて
懐かしいってことが 離れるだけで 泣いて
どうせ 私もいつか 呆れるほど簡単に
虚しい夜に 耐えられず 終わるんだ

あの子は午前三時ごろに死んだ
狭いワンルームの外 道端に倒れて
僕らは所詮、 仕方ないと 生きて
不意に逃げるようにして 言い訳をやめたんだ

私を見つけたのが 君でよかった
きっとまたすぐ会えるはずだけど
あなたの中であと少し生きていさせて
いつでも私はそこにいるから

生きてるから

少年少女ノ「シ」には 理由らしいものはなくて 
美しいってことに 惹かれるだけで 泣いて
どうせ、 僕らはいつか 死ぬときまで馴れ合って
白々しさに 耐えられず 笑うんだ

十年ちょっとの日々も 命と呼べる長さで
くだらないってことに 近づくだけで 泣いて
いまでもたった一人で 思い出だけ握りしめ
知らない街で 君のこと 探しても

どうせ、 僕らはいつか 呆れるほど簡単に
続く世界に 忘れられ 終わるんだ

 

有病率 lyrics : 宏川露之
——————————————————–
合併症気味の孤独と文庫と

電子表示の処方 エンドポイント
裏表紙 二次元半のARコード
読み取って、返却のフォルダに

離れ離れになった人たちと 
有線のモニタで話題を繋いだ
加熱された水槽 蒸気 途絶えていくメッセージの意味
久しぶりの返信は「また会おう」だったっけ 
答えられる言葉もないから
三点リーダーを繰り返す

ソフトウェア・アップデート 再起動 
中断した通話    最後の充電は昨日
気まずさが距離を遠ざける事情
所在ない風のせいで、終日、雨は横殴りの模様

―自動会話に切り替えますか?
―自動会話に切り替えますか?  

十数年、長い長い生活のログは
有病率  平均値並みのありふれた苦悩を抱え
厭世観 蔓延る 無意識的ワンルームの隙間で
唯物論を疑うデバイスに信仰は奪われた

旧交を一つずつ途絶えさせて 都市と地続きの孤島の上
重症化した心から順にサインアウトでさよなら
LANケーブル 中低速で行き来するシグナルの果てに
存在しないはずの世界を映し出して笑っていた

貸出を繰り返して すぐに飽和した治療薬はもう効かず
たった一人で生きることに付いて回る倦怠はまるで不治の病だ
入力を急かすように明滅するカーソル 窓を叩く音 
夜を濡らす雨、眠りにつく前 伝えたい思いに 涙 溢れた

「ここからはぼくの言葉で語らせてもらえれば」

 

アイソレイト  lyrics : 宏川露之 / ein himinn
——————————————————–
検診と検査 済ませたばかりで
思想的問題はなにひとつ見当たらず
それでもここから移動できる場所は
僕を縛り付ける頭の中だけ

自由について意味を問い始めた
隣人は僕の知らぬ間に消えてしまった
通り過ぎた景色を映す ビルの切れ端は 
終わりと始まりの道標だ

いつか今日を思い出す
僕が世界から逃げ出した部屋
隠したのはこぼれた本音か
それでもまだ心に思うなら

いつの日か僕が願うのは
違う世界の今日を生きた僕
たった一人で歩き始めて辿り着く
未来まで

排気塔、吐き出す煙が色づき
希望的観測は一日と保たないや
誰かの接触履歴を測って
次の誰かに怯える人に怯える僕

孤独に慣れるうちに この世界の
現実感はいつの間にか消えていた
覆い隠す記憶に眠る君の手触りも
気付けばあっけない白昼夢だ

いつか今日を繰り返す
君が世界から消え去った街
失くしたのは悲壮な希望か
それでもまだ明日が続くなら

いつかまた僕が出会うのは
同じ世界の今日を生きた僕
たった一人で歩き疲れて立ち尽くす
未来にて

知らない場所に いつしかまた戻るため
出会うすべてに別れを告げる
ただそれだけの短い言葉
どうなってもいい 終わってもいい
なんて言葉ばかり背負ってさ

なんて言葉ばかり背負っていた
僕らここで孤立した

いつか今日が思い出す
僕ら世界から捨てられた日を
映したのは些細な病か
それでもまだ傷が癒えぬのなら

いつの日か僕が夢に見た
違う世界へ今日を連れ出して
たった一人の旅の途中で手放した 未来だけ
たった一人の旅の終わりに繋がった 未来まで

 

ユキニフル lyrics : 宏川露之
——————————————————–
深夜の駅に雪は変わらず 乾いた喉は返事もできず
明け方までここで消えた思い出と 何もないまま今日が過ぎていく

あの日 君が言った
「後悔すらもできないときがきっとくるから」
その前に全てを伝えようとしても 来てくれないから街は遠のく

冷たい風がぶつかる路地を眺めて 仕方ないなと季節につぶやいた
融けない雪に感傷はないけど ただ嫌うだけ

だから、雪に降る ぼくらが泣いていたように
ずっと昔から決まっていたみたいに
街灯に照らされて淡く光る 真夜中をひとりきり

寂しい都市に居座っている 凍った足元 暗い工事現場
コンビニの明かりが無愛想に照らして 携帯の電池は無くてお別れ

アラームにした好きな音楽を聞いたら 恥ずかしいくらい涙がこぼれた  
誰でもいい この綺麗な声に謝ろう

だから、雪に降る ぼくらが傷ついたように
ずっと昔から決まっていた昨日も
街灯に照らされて淡く映る 真夜中をひとりきり

朝が来る前に 星空も見えないくらいだった 
ぼくらの未来が そっと降り止んだ
まだ微かに残る 君の温もりさえも全て 払うように
立ち止まる風景の色を変える 

だから、雪に降る ぼくらが泣いていたように
ずっと昔から決まっていた 戻れない あの日にだって

雪に降る 
ぼくらが生きてきた過去も覆い
ずっと昔から決まっていた未来も
街灯に舞い上がり生まれ変わる
真夜中をひとりきり

 

キミらしく生きて lyrics : ein himinn / 宏川露之
——————————————————–
何にもつまらない 人生だったなと 小さく呟いた 放課後 一人きり
東の空 夜鷹が鳴いた頃 私も私を失くしてしまった

こんなことなら もういっそ初めから 好き勝手やってさ 生きれば良かったな
朝日に焼かれる街に 消えていくの

未来のために今があるなら 今日のための過去は何だったのよ?
私の仇を討ち取るのは ほかでもないこの私だけなの

キミらしく

泣いて 笑って 三千世界の鴉を探して
透明な 心臓に 血を注ぎ込むような口づけがいい
近づいて 遠のいて さよならで流れ着く 海に沈む
幸せと嘯いた その涙は何でなの?

視神経 腫れて 外の雨が光り 寝不足の心を 手櫛で押さえる
帰宅途中 濡れたスカート、嫌 投げ捨てたビニールの 傘に似たプライドも
死んでからでも 遅くないと口ずさむ やけにおしゃべりな耳障りが 私の重力を不法所持
からだじゅう 月明かりに溶けていく 意識さえ 宵風に吹き飛んで 無責任な運命とただ抱き合って

だからもっと 意地らしく

妬いて 喚いて 三千世界の鴉を殺して
照明が 煌々と 照らす舞台袖で演じる私
失って 手に入れて 真夜中に貼り付いた 空に浮かぶ
退屈に満たされた その笑顔は何を思う?

感覚としては私の心 二次元未満のほつれた糸だ
一つ一つどうにか解いて 結果的に使い道などなくて
廃棄された人工衛星が 私の道を指し示すように
今日の終わりを端から割いて やがてまた明日を連れてくるから

キミは生きている それだけで キミらしい
その日々の挫折すらもまた キミらしい
終日ベッドの上でも キミらしい
呼吸さえしているなら キミらしい

聞き飽きた言葉 選んで 散々嫌いな自分を叫んで
凡庸な 心痛も 何一つ 報われはしなくていい
傷つけて 傷ついて 跡形もなく終わる 明日を願う
キミのまま キミでいい キミがいい

だからせめて キミらしく

生きて だなんて 三千世界の鴉が嘲って
透明な 人生も 嘘みたいに映える日を待ち望んだ
諦めて 強がって もう一度 「ワタシ」 から やり直して
ありふれた悲しみに ありふれた涙した

そのどれもが キミらしい